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家庭教師 小森千佳(41)

タッタッタッと軽い足取りで富田家へと向かう千佳。


千佳 「あ……これだとちょっと早く着き過ぎちゃうかな。」


今日は大学に行く用事もなく、午前中はずっと暇だった。

だからついつい早めにアパートを出てしまったのだ。

そういう日はいつもならカフェにでも寄って時間を潰すのだが、今日は時間を気にせず歩いていたら富田家の前まで来てしまっていた。

この時間だともしかして康介はまだ学校から帰ってきていないかもしれない。


千佳 「どうしよう……うーん……少し待たせてもらおうかな。」


富田家の大きな門の前で少し考えた後、いつものように呼び出しのボタンを押す千佳。

するとこれもいつもどおり、家政婦の山田という女性が出てきた。


山田 「どうぞ。」


山田という家政婦は相変わらず物静かで、千佳がいくら笑顔を向けても無表情だ。


千佳 「あ、あの、康介君はもう学校から帰ってきてるんですか?」


山田 「……康介さんは今日学校をお休みになられましたので、離れの部屋に居られますよ。」


千佳 「え、休み?風邪とかですか?」


山田 「いいえ、理由は伺っておりません。ただ休むという事だけでした。」


千佳 「そうですか……どうしたのかな、康介君。」


山田 「……珍しい事ではありませんよ、康介さんはよく今日のように学校をお休みになられる事がありますし。」


千佳 「え……そうなんですか……。」


山田 「それから、今日はお友達も遊びに来られているみたいです。」


千佳 「お友達?学校のですか?」


山田 「はい。制服姿でしたので、そうだと思います。」


……友達を呼んで遊んでる……もしかして康介君、今日が家庭教師の日って事忘れてるのかな……

友達がいるなら、今日はいつものうように2人で過ごせないのかもしれない。

そんな事を思いながら、千佳は家政婦と別れて離れの家へと向かった。

そしてその家のドアの前でインターホンを押す千佳。


千佳 「……あれ……?」


しかし、呼び出しても康介からの返事がない。

いつもなら大きな声で『入っていいよぉ!』と言ってくれるのに。


……どうしたのかな……居ないのかな……でも山田さんは部屋に居るって言ってたし……


数回ボタンを押してみても返事がなかったため、千佳はドアノブに手を掛けた。

鍵は掛かっていない。

勝手に入って良いものかと少し悩んだが、千佳はそのまま家の中に入っていく。

もしかして音楽でも聴いていて呼び出し音が聞えなかったのかもしれない。

家に入った千佳はそんな予想をしながら玄関から上がって康介の部屋の前に立った。

そしてノックをしてみる。

しかしそれでも部屋の中からは返事はなかったし、耳をすましてみても音楽らしき音も聞えない。


千佳 「康介く~ん、居ないの?」


少しだけ大きな声で、ドアに向かってそう声を発してみたものの、やはり返事はなかった。


……勝手に……入っちゃおうかな……


千佳は想像する。

このドアを開けると、康介があのいつものソファに男友達と座っていて、『おお千佳先生、ごめんゲームやってて聞えなかったわ。ていうか今日家庭教師の日だったっけ?』と自分に笑いながら言ってくるのを。


ガチャ……


ドアをゆっくりと開け、部屋の中を覗く千佳。

しかしその部屋に、康介は居なかった。


千佳 「あれ……居ない……」


部屋の中に入り、見渡してみてもやはり誰も居ない。


……山田さんが気付かない内に康介君、友達と外出しちゃったのかな……


千佳 「康介君、絶対忘れてるんだわ、今日が家庭教師の日だって事。」


少しだけ怒ったような表情でそう呟く千佳。

『もう!忘れてたでしょ!?』

そんな風に言えば、笑いながらゴメンゴメンと返してくる康介の姿が思い浮かぶ。

いつだって、千佳の頭の中に登場するのは笑顔の康介だ。


千佳 「……。」


静まり返った部屋。

康介が居ないこの部屋に、自分1人だけが居るのがなんだか不思議な感じ。

康介はいつも絶え間なく話し掛けてくれたから、その分凄く静かに感じて、同じ部屋なのに康介が居ないというだけで、まるで別の部屋のようだった。


千佳 「……もう一度山田さんの所に行ってどうしたらいいか聞いてみよ。」


……でも、今日会えなかったらちょっとショックだな……


いつもより少し早めに来てしまう程、今日は会いたかったのに。

これ以上勝手にこの部屋に居続けるのはさすがに気が引けるので、千佳は部屋を出る事にした。

しかしその時だった。



「ぁ……ン……ハァ……ァン……」



千佳 「……ぇ?」


千佳の耳に微かに届いた、誰かの声。



「ァ……ン……ァ……ァ……」



確かに聞こえる。

部屋から出ようとしていた千佳は、身体の向きを180度回転させ、その声が聞こえる方を見つめた。

その声は、今千佳がいる部屋のさらに奥、康介の寝室の方から聞こえていた。

しかもそれは明らかに康介の声とは違う、高い声。

女性の声だった。


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[ 2013/12/12 ] TB(0) | CM(4)

家庭教師 小森千佳(42)

その場に立ち竦む千佳。


千佳 「……誰か……いる……」


しかも聞えてきた声が女性だった事に、千佳の心は大きく動揺していた。

声質から考えて女性というより、女の子と言った方がいいのかもしれない。


……山田さんが言ってた康介君の友達って、女の子だったの?……


千佳は出ていくために開けたドアを音がしないように静かに閉め、その逆側の寝室のドアへとゆっくりと近づいていく。


「ンァ……ハァ……ァ……ァ……」


一歩一歩寝室に近づくにつれ、徐々にはっきりと聞こえるようになっていく女の子の声。

ドキドキと高鳴る千佳の胸の鼓動。

女の子の声の出し方を聞けば大体予想はついてしまう。寝室で何をやっているのか。

緊張と不安が入り交ざった複雑な感情が、グルグルと頭の中を駆け巡る。


千佳 「……・」


ドアの前まで来ると、ベッドの軋むような音まで聞こえてくる。

千佳はその場にしゃがみ込み、しばらくその声と音を聞いていた。

女の子の声と音は聞えてくるけど、康介の声は聞こえてこない。

だからこの状況に最悪の事態を想像してしまうが、目で見るまで確信は持てなかった。

ゴクリと生唾を飲み込んだ千佳の震える手が、自然とドアノブに伸びていく。

そしてドアノブを握り、ゆっくりとドアを開ける。


「ハァ……ン……ン……あっあっ……ンハァ……」


ドアを開けた瞬間に感じたあのアロマキャンドルの香りと、今までよりもさらにクリアに聞こえる女の子の声。


康介 「ハァ……ああすっげぇ狭いな、お前の膣(なか)。チ○ボ千切られそうだわ。」


「ハァ……ンァ……富田先輩……はァ……」


床には脱ぎ捨てられた男女の制服、そしてベッドの上に視線を移すと裸の男女が抱き合っていた。

顔はこちらに向いていないが、その声を聞けば明らかに康介であると事が分かる。

女の子はショートカットで、顔はまだ幼さが残った可愛い感じの子だった。

高校2年の康介のことを『富田先輩』と呼ぶという事は、つまり去年まではまだ高校一年生という事だろう。

しかし幼い顔をしていても、頬を火照らせながら快感に喘ぐその表情は、しっかり〝女〟をしていた。


「ァアアッ……先輩……ンァ……アッアッアッ……!」


康介が腰を激しく振りながら責めると、女の子は切羽詰まった様子で〝先輩〟と何度も康介の事を呼びながら喘いでいた。

2人とも汗だくで、その熱気が見ているこちらまで伝わってきそうだ。


千佳 「……ハ……ァ……」


目の前に広がる光景に衝撃を受けた千佳は、脳がグワングワンと揺れるような感覚に陥っていた。

苦しい。

どうやって呼吸をすればいいのか分からない。

空気を吸うことはできても、吐くことができなくなってしまった。


千佳 「……ハ……ハ……」


酸素を取り込みすぎて、目の前の光景がボンヤリと霞んでいく。

抱き合って、深く唇を重ねている2人の姿が、まるで白い霧に包まれていくよう。


苦しい……苦しい……苦しい苦しい苦しい苦しい……


そしてその息苦しさが限界に達した時、千佳は自然とそのドアを閉めていた。


千佳 「ハァァ!……ハァ……ハァ……」


ドアを閉めると、そこでやっと息を吐くことができた千佳。

しかし急激に身体の中に溜まっていったその不安や悲しみを吐き出した瞬間、千佳の目からポロポロと涙が溢れ始めた。


千佳 「ぅ……ぅ……ぅ……」


次々と溢れてきて止まらない涙。

でも、今もドアの向こうからは女の子の声とベッドの軋む音が聞こえてくる。

イヤ……イヤ……

もう限界。

涙を流しながらもヨロヨロと立ち上がった千佳は、整理のつかない頭で、困惑と悲しみを抱いたまま康介の部屋から出て行った。

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[ 2013/12/12 ] TB(0) | CM(2)

家庭教師 小森千佳(43)

あれから、どうやって自分のアパートまで帰ってきたかはよく覚えていない。

富田家の門を出てからはずっとすすり泣きながら俯いていた。

涙でクシャクシャになった顔を周囲の人達に見られないように、いつもは窓の外の景色を眺めている電車の中でもずっと床を見つめていたりしていた。

そしてアパートの部屋に帰ってきてすぐにベッドに倒れ込み、今度は我慢せずに涙を流す。



千佳 「ぅ……ぅぅ……」


康介と知らない女の子が裸で抱き合っている。
その映像が頭の中からなかなか消えてくれなかった。

嫉妬と悲しみが千佳の胸を締め付ける。

自分と同じように身体の全てを康介に捧げている女の子に対する嫉妬。

自分がしてもらっていたのと同じように女の子を抱いている康介を見て、今まで幸せを感じていた康介との思い出が全て悲しみへと変わってしまった。

そしてその悲しみは、今の千佳には受け止められない程大きいものだった。

苦しい想いを涙に変えて吐き出しても全然間に合わない。

辛い、辛すぎる。

しかし辛くても、千佳には康介を怒る権利はない。

そう、千佳は康介の恋人ではないのだから。

今までは自分の気持ちにずっと嘘をついて誤魔化してきたのが、今日その現実を目の当たりにしたというだけ。

嘘をついていたのは康介ではなくて自分自身。

千佳が今まで感じてきた幸せは、ただの〝恋人気分〟だったのだ。


千佳 「ぅぅ……康介君……ぅ……」


……耐えられない……耐えられないよ……


康介がいない世界なんて耐えられないし、考えられなかった。

今日見た事が全て夢だったらどんなにいいか。

そしていつものようにあの部屋に行って、康介の面白おかしい話を聞いて、ふたりで笑って過ごすんだ。


……康介君に抱きしめてもらいたい……私だけを見つめて抱きしめてもらいたい……


康介が恋しかった。あの温かい腕の中が恋しい。


……でも今はきっと、あの女の子がその温かさを感じているんだ……


その日、千佳は夜中までずっと泣いていた。

食事も取らずにただ枕を濡らし、涙が枯れるまで。




尚子 「そっかぁ、まぁでも、それは宿命みたいなものね。」


千佳 「……宿命?」


次の日、尚子が千佳の部屋に来ていた。

2人とも休みの日だったから食事でもと電話で誘ってくれた尚子。

しかし千佳はとてもそんな気分にはなれなかった。だから食欲がないと伝えたら、尚子は何かあったの?相談ならいくらでも聞くよと、心配そうに言ってくれたのだ。


尚子 「そう、危険な男に溺れた女の宿命よ。」


千佳 「そんな……宿命だなんて……」


尚子 「でも、いつかはその人と離れないといけない時が来るって、千佳も分かってたんでしょ?そういう男だって事。」


千佳 「分かって……たのかな……でも、考えないようにしてたのかもしれない。ていうか、今もちょっと考えられなくて……」


尚子 「はぁ、千佳ってさ、本気で好きになっちゃったんだね、その人の事。」


千佳 「……うん……。」


涙を滲ませながらそう頷いた千佳を見て、尚子は申し訳無さそうにこう続けた。


尚子 「ごめんね千佳、前に相談乗った時に止めればよかったのかな、友人として。私、危険な恋に溺れるのっていいなぁみたいな事言っちゃったし。駄目よね、危険は危険なんだから。傷つくのは千佳だし。」


千佳 「……ううん、尚子ちゃんは悪くないよ……私もう、あの時には康介君の事好きだったから……どうしようもなかったと思う……」


そうだ、千佳は恋に落ちていた。

康介に初めて会ったあの時から。

そして今だって、そこから這い上がれないでいる。


千佳 「私……どうしたらいいんだろう……こんなの……ぅぅ……耐えられない……」


昨日枯れるまで流したというのに、また溢れてくる涙。

自分どんな弱さでも打ち明けられる親友の前だから、余計に我慢できない。


尚子 「千佳……」


尚子は千佳が泣いている姿を見て、どんな言葉をかければ良いのかずっと悩むようにして考えていた。


尚子 「……千佳……もう今日はあんまり考え込まないようにしよ?今は兎に角、千佳の心の傷を癒すことが大事だよ。」


千佳 「……癒す……?」


尚子 「そう、ご飯も食べないと身体壊すし、ね?心だけじゃなくて身体まで壊しちゃったら、本当に大変だよ。」


千佳 「……ウン。」


尚子の優しさが嬉しかった。

こんな友達が居てくれて本当によかったと。


尚子 「そうだよ、ゆっくりで良いんだから。しっかり千佳の心を癒して、それから考えよう。……そしたらきっと少しずつ忘れられるよ、その人の事も。」


千佳 「……わす…れる……?」


尚子 「そう、でもゆっくりでいいからね。忘れようだなんて考えなくていいから。」


尚子は千佳が立ち直る為の正しい道を示してくれる。

千佳もそれがきっと正しいのだと思っていた。

康介を忘れる事が、自分が選ぶべき道なのだと。

しかしそんなに簡単ではなかった。

そう、今の千佳にとってはそんなに簡単ではないのだ。自分の心と身体から康介を消す去るなんて事は。


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[ 2013/12/12 ] TB(0) | CM(6)

家庭教師 小森千佳(44)

千佳は住宅街の中の道を歩いていた。

その足取りはゆっくりとしていて、先程から何度も立ち止まっては歩き、立ち止まっては歩きを繰り返している。

この道を前に進むべきなのか否か、千佳は迷いながら歩いていたのだ。

尚子には「辞めちゃいなよ、家庭教師のバイトはさ」と、あっさりと言われたが、千佳にはそう簡単にそれを決断する事はできなかった。

康介の部屋から逃げ出したあの日から、次の家庭教師の日までの3日間を悩み続けたが、結局ズルズルと時間は過ぎ、当日になってしまったのだ。

辞めるのなら作業は簡単だ。

山田という富田家の家政婦に電話をして「辞めさせてもらいます」と、それだけを言えば良いのだから。

部屋のベッドの上で携帯を開き、番号を押すところまでは何度もいったけれど、そこから電話を掛けるためのあと1つのボタンをどうしても押すことができなかった。

辞めてしまえば全てが終わる。

家庭教師という千佳にとって康介とのただ1つの繋がりさえ切ってしまえば、簡単に終わる関係なのだから。

それでもう二度と康介と会う事はないだろう。

そう、会う事はないんだ。

そうすれば、もう辛い想いはしなくて済む。


……終わらさせなきゃ……


しかし、そう思って携帯のボタンを押そうする度に、千佳の頭の中にあの笑顔の康介が現れた。

康介から自分の心を離そうとすればするほど、逆に康介に会いたいという気持ちに心が侵食されていく。

会いたい、もう一度康介君に会いたいと、何度も胸の奥で本当の自分が呟く。

携帯を開き電話をしようとして、やっぱり止める。3日間その繰り返しで、その度に千佳は泣いていた。

そして今日、どうしたら良いんだろうと考えながらも、ここまで来てしまったという訳だ。


千佳 「……はぁ……」


康介に会って、何を言えば良いのかなんてさっぱり分からない。

勉強だって、もう平常心で教える事なんてできっこないのに。

こんな不安定な気持ちのままでは、康介の顔を見ただけで泣いてしまいそう。


……私……何がしたいんだろう……何を期待してるんだろう……報われるわけないのに……


そしてついに富田家の門の前まで来てしまった千佳は、その場にしばらく立ち尽くしていた。

康介の事を忘れる事もできないし、会いたくても自分が傷つく事が怖い。

忘れる勇気も、会う勇気もないというどうしようもない程弱い自分が、ただ小さくて卑怯な期待を抱いてここに立っている。


千佳 「……やっぱり……帰ろうかな……」


十数分そこに立ち続けた千佳は、ボソっとそう声を漏らした。

寸前になって逃げ出したくなる。

そしてまたアパートに帰ってベッドで泣くんだ。

尚子はこんな自分になんて言葉をかけてくるのだろうか。

きっとまた優しくしてくれる。

尚子の優しさが、今の千佳にとっては唯一の逃げ場なのだ。

家庭教師を辞めるとも言えずに、また逃げて休むという大人として無責任な行動。

あの責任感の強いはずだった千佳は、今はいない。

弱った心は、大人としての責任や何もかもから逃げたがっている。

帰ろう。

そう決めて千佳は富田家から引き返して駅の方へ戻っていこうとした。

しかし数メートル歩いた所で、千佳は思わず立ち止まる。


千佳 「……ぇ……」


前から歩いてくる、1人の男性。

制服姿のその男は、康介だった。

そして康介は千佳の存在にすぐに気付くと、何の躊躇もなくあの笑顔で千佳に声を掛けてきた。


康介 「お……あれ、千佳先生じゃん。」


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[ 2013/12/12 ] TB(0) | CM(3)

家庭教師 小森千佳(45)

康介の声を聞いた瞬間、胸がギュウっと締め付けられる。

心の準備ができていなくて不意打ちのような形だったので、余計にその動揺は大きくなった。


康介 「あーそっか、今日家庭教師の日か。」


千佳 「……。」


その場に立ち竦んだままの千佳。

声が出ない。

胸の奥から色々な想いが込み上がってきて、それが喉を詰まらせてしまっているみたいだった。


康介 「門開かなかった?」


そう言いながら康介は千佳の側まで近づいてくる。

どうしたらいいの?どうしたらいいの?と頭の中が混乱する。

今目の前に居るのはいつも通りの康介で、数日前に見た女子高生と抱き合っていた康介とはまるで別人のように感じてしまう。

そう、そこにはいつも通りの、千佳が好きな康介がいたのだ。


康介 「別に千佳先生ならもう勝手に入ってもいいけどね。ん?……どうしたの?暗い顔して。」


近くに来て、ようやく千佳の様子がいつもと違う事に気付いた康介がそう聞いてきた。

だが康介の顔を見る事ができない千佳は、その暗い表情をなるべく見せないようにして俯いたままだった。


千佳 「……ごめん……」


搾り出すようにして一言だけ喉奥から出てきた言葉。

なぜ謝ったのかは自分でもよく分からなかったが、そう声を発した瞬間、千佳の目からは涙が溢れ出していた。

そして千佳はその場から立ち去ろうとする。

どうしてそうしようとしたかは、自分でもよく分からない。
 
康介に泣き顔を見せてはいけないと思ったのか、その場から逃げ出したくなったのか。


康介 「え?あ、ちょっと待ってよ。」


その場から去ろうとした千佳の腕を咄嗟に掴んだ康介。

康介に腕を掴まれて、千佳はそこでようやく自分がなぜこんな行動に出たのか気付く。

こうやって康介に止めてもらいたかったのだ。

ずるいけど、これが今の千佳の正直な気持ちなのかもしれない。

こうしてもらいたかったから、康介に構ってもらいたかったから千佳は今日、ここまで来たのだ。


康介 「……ホントにどうしたの?なんかあった?」


千佳 「……ぅ……」


言葉を発しない代わりに涙を流す千佳。

決して狙ってそうしている訳ではないけど、そうなってしまう。


康介 「……とりあえずさ、中に入ろう?」


この康介の優しさは、もしかしてあの女子高生にも見せている優しさなのかもしれない。

でも今はそれもどうでもいい。

千佳が今考えているのは自分の気持ちと、康介の気持ち、それだけなのだから。




康介 「少しは落ち着いた?」


部屋の中に入れて、温かい飲み物を出してくれた康介。

両手でカップを持ち、少しずつそれを飲むと、その温かさが千佳の身体に染みていった。


康介 「それにしてもビックリしたよ、千佳先生急に泣き出したから。」


千佳 「……ごめん……」


康介 「……何があったの?ていうか、もしかして俺なんかした?」


千佳 「……。」


……康介君……本当に分からないのかな……


そんな疑問が千佳の頭を過ぎっていたが、少しすると黙ったままの千佳を見ていた康介は、思い出したようにして再び口を開いた。


康介 「あー……そういえば千佳先生、この前の家庭教師の日どうしてたの?」


千佳 「……ぇ……」


康介 「……もしかして、ここに来てた?」


千佳 「……。」


康介からの問い、それを否定しない千佳。

千佳のその反応を見て、康介はようやく勘付いたようだった。


康介 「そっか……じゃあ……あーなるほど、そういう事か。」


康介がそう漏らした後、部屋の空気は一気に重くなって2人はしばらく黙り込んでいた。

そして康介はずっと何か言葉を探しているようだったが、先にその沈黙を破ったのは千佳の方だった。


千佳 「……康介君……康介君は……私の事、どう思ってるの?」



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久しぶりの更新になってしまいすみません。
[ 2013/12/12 ] TB(0) | CM(5)