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人妻 吉井香苗(108)

祐二は実家から母親が泊まりに来る事に少し迷惑そうな顔をしていたが、来ると言っているのだから仕方がないと、渋々それを受け入れた。

そうと決まれば香苗は忙しくなる。

部屋の掃除、義母が寝るためのスペースや布団の確保、そして夜の食事の準備。

良好な関係を築けている優しい義母と言っても、やはり気は使う。

料理もいつものうようにはいかず、やはり和食でさっぱりしたものが良いのかとか、食器はどれにしようだとか、色々と考えないといけない。

しかし、それが楽しかった。

この主婦としての忙しさは、香苗が好きな忙しさだ。

こうやって、家族のために忙しく身体を動かす事が、香苗は何よりも好きなはずだった。


……そうよ、これが私よ……これが本当の私……



香苗 「祐二、私買出しに行って来るね、夜ご飯の。」


祐二 「おお、そうか。あっ、俺もいっしょに行くよ、どうせ部屋に居てもやる事ないし。」


香苗 「え、いいよ、祐二は久しぶりの休みなんだから、ゆっくりしてて。」


祐二 「いや、俺の運転で行こう。香苗といっしょに買い物とか、最近ずっとなかっただろ?」


香苗 「フフッ、うん、じゃあ一緒に行こうか。」


そんなこんなで結局、買い物は夫婦2人で行く事に。

スーパーでは香苗が食材を選び、祐二が買い物カゴを持つ。

そんな2人の表情は笑顔が多く、どこからどう見ても仲の良い幸せな夫婦にしか見えない。

現に祐二と香苗は、夫婦の時間を心から楽しく過ごしている。

香苗はなんだかこの1日で、自分達夫婦が元に戻れたような気がして嬉しかった。

いや、夫婦と言うよりも、自分自身が戻れたような気がしていた。

ここは真っ暗で寒い世界なんかじゃない。

明るくて温かくて、幸せな世界。

どうして自分はそれを見失ってしまっていたのだろう。


……こんなに幸せな場所があったのに、私には祐二がいたのに……


忘れたかった。

暗い世界に堕ちてしまった時の事。

祐二を裏切ってしまった事。

全て無かった事にしたい。

忘れたい、忘れたい、忘れたい。

香苗は呪文のようにそう自分の心に言い聞かせていた。

おそらく結婚後、一番の幸せを感じているであろう今。

この幸せだけをずっと感じていたい。

幸せな気持ちに包まれた香苗の心から、あの男の存在が薄れていく。

忘れたい記憶と共に、あの男も消えていく。

祐二がずっと一緒に居てくれたら、もしかしてこのまま無かった事になってくれるのかもしれない。

全てが綺麗に消え去ってくれるかもしれない。

忘れたいという一心だった香苗は、やがてそのように思い込むようになっていた。



祐二 「それにしても沢山買ったなぁ、まぁ母さんは結構食べるから良いと思うけど。」


香苗 「お義母さん元気だよね。1人でこっちまでコンサート見に来るくらいだもん。」


祐二 「父さんは今頃家で1人ぼっちだけどな。母さんとは正反対で、出不精だから。」


香苗 「それでバランス取れてるのかもね。」


祐二 「まぁな。でも父さんも定年退職して家に閉じこもってばかりも良くないだろうし、今度旅行にでも誘ってみるか。」


香苗 「わぁ、いいねそれ。祐二が誘ったらお義父さん絶対喜ぶよ。」


そんな会話をしながらマンションに戻ってきた2人は、相変わらず笑顔が多い。

香苗は気付いたのだ。自分が笑顔でいると、祐二も笑顔になってくれるという事に。

そしてその祐二の笑顔を見て、自分自身も元気になれる。

これが夫婦なんだと思った。

それに気付けた事が、凄く嬉しい。



祐二 「じゃあ俺、母さんを迎えに行って来るよ。」


夜になり、食事の用意ももう殆どできた所で、祐二が義母を迎えに行く為に外へ出て行った。

義母は複雑な路線の所為で、最寄の駅まで正確に来る自信が無いと言っているらしく、祐二は少し遠い駅まで迎えに行く事に。

おそらく帰ってくるまでに1時間以上は掛かるだろう。

香苗はその間、デザートを作ったり、玄関で花を生けたりしていた。

義母に会うのはいつも向こうの実家でだったから、自分達の部屋に迎えるのは少し緊張する。

夫の母親には、自分が主婦の仕事をしっかりしているのだと思われたい、それが本音だろうか。

この時点で香苗はもう普通の主婦に戻っていたと言っていい。

そう、香苗は結婚しているのだ。

結婚は2人だけの関係ではない。双方の家族、そして親戚も関係してくる。

そんな貞操観念が、香苗には戻ってきていたのだ。

祐二は、自分が愛する人だと改めて感じている。

祐二や大切な家族を失う事なんて、考えられない。



……しっかりしないとダメよ……



一度崩れてしまった物。

でもそれはもう一度、積み重ねていけるのではないかと。

いや、きっと積み重ねてみせるのだと、香苗は決心をし始めていた。


……もう少し……もう少しで……


暗闇の世界から明るい世界へと続く階段を上っていく香苗。

一歩ずつ、一歩ずつ、しっかりと足場を確認しながら。

もう少しで抜け出せる。

嬉しい。私には待ってくれている人がいる。

あの先に見える明るい世界で、祐二が笑顔で待ってくれているんだ。


……ああ……祐二……


しかし、香苗が気付いていなかった。

幸せを夢見る自分の背後から、あの男が再び香苗を引きずり落とす為に迫ってきている事を。

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[ 2014/01/02 ] TB(1) | CM(0)

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祐二は実家から母親が泊まりに来る事に少し迷惑そうな顔をしていたが、来ると言っているのだから仕方がないと、渋々それを受け入れた。そうと決まれば香苗は忙しくなる。部屋の掃除、義母が寝るためのスペースや布団の確保、そして夜の食事の準備。良好な関係を築けている...
[2012/05/28 23:50] URL まとめwoネタ速neo